1. HOME
  2. book
  3. グローバリゼーションの終焉とこれから:中野剛志氏著『世界インフレと戦争』を読む
book

グローバリゼーションの終焉とこれから:中野剛志氏著『世界インフレと戦争』を読む

book, onologue, thinking

129

20年、30年後の社会を生きるすべての世代へ


1月課題新書。すべてがベーシック・ペンションに繋がるこの3冊:『年収443万円』『世界インフレと戦争』『未来の年表 業界大変化』(2023/1/4)
年の初めに、この記事で紹介した、中野剛志氏著『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』(2022/12/15刊・幻冬舎新書) を昨日読み終えました。

(第二次)グローバリゼーションは、ウクライナ侵攻でその終焉を迎えた

・「ロシアのウクライナ侵攻で、我々が過去三十年にわたり経験してきたグローバリゼーションは終わりを迎えた」(ブラロックCEOラリー・フィンク、2022年3月24日付株主宛書簡)
・「この危機(ウクライナ戦争)は、我々の知っているグローバリゼーションの終わりを意味する」(EUジェンティローニ欧州委員、2022年4月21日講演)
・「我々は、1914年(鉄道、蒸気船、電信ケーブルによる第一次グローバリゼーションが終焉した年)の経済的な再現を見ていると言ってよい」(経済学者ポール・グルーグマン)

世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』「第1章 グローバリゼーションの終焉」は、この3人の発言の紹介から始まっています。

(第二次)グローバリゼーションの終わりは、2008年の金融危機に端を発している

これを引き継いで、
「では、グローバリゼーションの終わりは、いつから始まっていたのか」という中野氏自らの問に対して「世界の有識者たちの認識はほぼ一致」しており、「2008年の金融危機(リーマン・ショック)」
であるとしています。

グローバリゼーションとは

本書における「グローバリゼーション」、その意味とは、
「貿易、投資、人、情報、技術、思想の国境を超えた移動が活発になること」。
いきなり、多くの専門家のグローバリゼーションに関する共通認識が、リーマンショックにある、と言われても、新型コロナウィルスパンデミックとウクライナ侵攻が起きる前の10数年が終わりの始まりだったとは思えません。
この間、行き過ぎた、加熱する資本主義がもたらす巨大資本・巨大企業の支配とそれに反比例して加速する格差や貧困問題の拡大などは、ある意味グローバリゼーションの加速がもたらしてきたもの。
単純に言えば、グローバリゼーションは、拡大を続けてきた。
そう受け止めることに決して違和感がないと思われるからです。

しかし、本書の視点は、歴史を俯瞰する幅が、非常に広くそして長く、私が提案するベーシックインカム、ベーシック・ペンションにおいて懸念されるインフレの過去の発生も、100年、200年というスパンで捉えられ、それぞれの要因が比較分析されています。

その中にあって、グローバリゼーションは、第一次と第二次のものとして捉えられ、前者は、1870年に始まり1914年の第一次世界大戦で終えたとします。
そして第二次世界大戦終局後の1945年に始まった後者の終わりの始まりが2008年の金融危機リーマンショックであり、昨年2022年のウクライナ侵攻がその終焉をもたらしたと。

止まらないグローバル化、合言葉は「フェアネス」

しかし、こうした中野氏の主張に棹差すかのように、日経が一面で、元旦から、<Next World>【分断の先に】というテーマでのシリーズを始めた。

⇒ (Next World)分断の先に(1) グローバル化、止まらない  世界つなぐ「フェアネス」 :日本経済新聞 (nikkei.com)
その1回目のタイトルが『グローバル化、止まらない 世界つなぐ「フェアネス」』。
書き出しが、以下のようになっている。

米国と中国の対立、ロシアのウクライナ侵攻。分断の嵐が世界を襲い、グローバリゼーションは停滞する。それでも、外とのつながりに豊かさを求める人々の営みは途切れない。試練の先の「Next World(ネクスト・ワールド)」。世界をつなぐのはイデオロギー対立を超えたフェアネス(公正さ)だ。


「フェアネス」。
眼前に繰り広げられている、ロシアのウクライナ侵攻という、明らかな「アンフェアネス」。
マッドドッグ北朝鮮が繰り広げる挑発。
増長・膨張する習近平中国の覇権主義国家動向。
その他の軍政国家や先進国・後進国どちらにおいても勢いを増す極右・極左政治グループの存在。
彼らは彼らなりの「フェアネス」の上に行動していることを主張するに違いない。
グローバル経済の持続こそ格差是正と成長と繁栄の唯一の方策であり、解であるかのように、希望を持たせる用語「フェアネス」。
それは、行き過ぎた資本主義の路線を心改めて、グローバリズムを望ましいあり方に改革する魔法の言葉であるかのようだ。
問題は「フェアネス」の基準だが、好んでこの言葉を用いる人々や国家や企業は、まさに「フェアに」それを決めることができるだろうか、実際「フェアネス」を具現化できるだろうか。
そこでも、何かしら<SDGS>や<ESG>のような、資本主義・資本家主導のキーワード創りの匂いを感じてならない。
さて、2023年は、どのようにグローバリゼーションが変化・変質するだろうか。

世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』から考えるベーシック・ペンションと21世紀の多種多様な「安保」

以下に、『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』の目次を転載しました。
元々は、私が提案する日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金制度導入に伴い懸念されるインフレ発生リスクについての考察・対策等を深掘りすることを目的として、先に読み終えた渡辺努氏著『世界インフレの謎』に続いて注目し、入手した書です。
その内容は、http://basicpension.jp で提案するベーシック・ペンションの目的・意義、管理運用方法、財源などと深く、広く関係する部分が多く、非常に刺激され、かつ参考になるものでした。
また、https://2050society.com で昨年第4四半期から主なテーマとしている多種多様な<安心安全安定・保有保持確保>の「安保」政策及び問題と関係しています。
そこで、今年第1四半期は、同書を参考に用いて、ベーシック・ペンションと各種「安保」問題とを考えていくことにしました。
ベーシック・ペンション自体が、生活安保を目的としており、かつ社会経済システムとして、一つの日本文化として位置づけ・意義づけるものなので、そのシリーズは、主として http://basicpension.jp で展開する予定です。
そのシリーズの展開方針について、次回、当該サイトで検討することにします。
本年も、当サイト及び他の2サイトを宜しくお願いします。


世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』目次

はじめに 物価高騰が示す世界の歴史的変化
第1章 グローバリゼーションの終焉
 ロシアのウクライナ侵攻で迎えた終焉
 終わりの始まりは2008年の金融危機
 最初から破綻していた、リベラリズムという論理
「中国の平和的な台頭」などあり得なかった
 東アジアの地政学的均衡を崩した、アメリカの失敗
 ウクライナ侵攻もリベラル覇権戦略破綻の結果
 金融危機、格差拡大、排外主義の高まり
 物価高騰は一時的な現象では終わらない
 防衛費を抑制し続けた2010年代の日本
 世界情勢の変化を把握せず、安全保障を軽視
 TPPは日本の食料安全保障を脅かす
 エネルギー安全保障も弱体化させた安倍政権
 電力システム改革が電力不安を不安定化した
 中国の地域覇権の下で生きていくのが嫌ならば・・・ 
第2章 二つのインフレーション
 グローバリゼーションが終わったからインフレが起きた
 先進国ではインフレにならないことが問題だった
 デマンドプル・インフレ ー 需要過剰で物価が上昇
 コストプッシュ・インフレ ー 供給減少で物価が上昇
 コストプッシュで持続的な物価上昇が起こる経緯
 一時的な物価上昇も「インフレ」か
 原因も結果も対策も大きく異なる二つのインフレ
 ノーベル経済学者十七人が長期のインフレ対策として積極財政を支持
 資本主義経済の正常な状態はマイルドなデマンドプル・インフレ
 コストプッシュ・インフレの言い換え
第3章 よみがえったスタグフレーション
 第二次世界大戦後に起きた六回のインフレ
 過去六回と比較し、今回のインフレをどう見るか
 2022年2月以降はコストプッシュ・インフレ
 FRBによる利上げは誤った政策
 IMFは利上げによる世界的景気後退懸念
 コストプッシュ・インフレ対策としては利上げは逆効果
 1970年代よりはるかに複雑で深刻な事態
 世界的な少子高齢化から生じるインフレ圧力
 気候変動、軍事需要、長期的投資の減速
「金融化」がもたらした株主重視の企業統治
 企業が賃金上昇を抑制する仕組みの完成
 なぜ四十年前と同じ失敗が繰り返されるのか
 インフレ政策をめぐる資本家と労働者の階級闘争
 七〇年代のインフレが新自由主義の台頭をもたらした
 ケインズ主義の復活か新自由主義の隆盛か 
第4章 インフレの経済学
 主流派経済学の物価理論と貨幣理論
 貨幣供給量の制御から中央銀行による金利操作へ
 コストプッシュ・インフレを想定していない政策判断
 問題の根源は、貨幣に対する致命的な誤解
 注目すべき「貨幣循環理論」と「現代貨幣理論」
 財政支出に税による財源確保は必要ない
 政府が財政赤字を計上しているのは正常な状態
 政府は無制限に自国通貨を発行でき、財政は破綻しない
 財政支出や金融緩和がインフレを起こすとは限らない
 ポスト・ケインズ派は「需要が供給を生む」と考える
「矛盾しているのは理論ではなく、資本主義経済である」
 経済成長には財政支出の継続的な拡大が必要
 ハイパーインフレはなぜ起きるのか
 コストプッシュ・インフレは経済理論だけでは解決できない 
第5章 恒久戦時経済
 第五波インフレで、世界は政治的危機へ
 中世ヨーロッパ文明に終焉をもたらした第一波インフレ
 格差拡大、反乱、革命、戦争を引き起こした第二波・第三波
 冷戦の終結をもたらした第四波インフレ
 すでに危険な状態にあった世界を襲った第五波
 内戦が勃発する可能性が高まっているアメリカ
 債務危機のリスクが高まりナショナリズムが先鋭化するEU
 成長モデルの根本的な変更を余儀なくされている中国
 中国の行き詰まりから東アジア全体で地政学的危機勃発か
 日本は最優先で何に取り組むべきか
 安全保障を強化し、内需を拡大させる産業政策を
 国内秩序を維持するための「大きな政府」
 特定の財に限定した「戦略的価格統制」の有効性
 世界秩序の危機は長期化し、戦時経済体制も長期化
「恒久戦時経済」構築以外に生き残る道はない 
おわりに 悲観的積極主義

20年、30年後の社会を生きるすべての世代へ

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。