2022年介護事業者倒産件数、過去最多143件:東京商工リサーチ調査
一昨日2023年1月11日に、毎年1月に東京商工リサーチによる、前年の「老人福祉・介護事業」倒産調査結果が公開された。
当サイトの親サイトである https://2050society.com で同調査結果を紹介したのが、2019年の動向をテーマとした。以下の記事。
⇒ 厳しさが拡大する介護小規模事業所経営。2019年倒産件数過去最多(2020/1/12)
その記事では、介護業界の体質などの問題も指摘し、以後も倒産件数は増加することを指摘しています。
それから3年経過しており、念のため、2020年、2021年の動向を知りたいと思い、同社ホームページで確認。
折角ですので、2019年から今回発表の2022年までの4年間の結果概況を、要約しました。
2019年度「老人福祉・介護」事業倒産概況
集計開始以来、過去最多だった2017年の111件に並ぶ。
2016年の108件から4年連続の100件台と倒産が高止まり。
高齢化が進むなかでの倒産増加の背景には、人手不足と人件費の上昇がある。
特に、ヘルパー不足が深刻な訪問介護事業者の倒産が急増し、全体を押し上げ。
業歴が浅く、小規模の倒産が大半を占め、マーケティングなど事前の準備不足のまま参入した零細事業者の淘汰が加速。
(参考)
⇒ 2019年「老人福祉・介護事業」倒産状況 : 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)
2020年度「老人福祉・介護」事業倒産概況
・倒産件数は118件に達し、過去最多を更新
介護保険法施行の2000年以降、過去最多だった2017年と2019年の111件を上回った。
・新型コロナ感染拡大で利用控えが進み、経営が悪化した新型コロナ関連倒産も7件発生。
人手不足などで経営不振が続く小規模事業者に加え、新型コロナの影響が件数を押し上げ。
・業種別倒産状況
1)「訪問介護事業」56件(構成比47.4%)、深刻なヘルパー不足が影響
2)デイサービス等「通所・短期入所介護事業」38件(同32.2%)、前年比18.7%増。大手企業との利用者の獲得競争が激しく、倒産増加の一因に。
(参考)
⇒ 2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 : 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)
2021年度の「老人福祉・介護」事業倒産概況
・倒産件数は81件。過去最多の2020年(118件)に対し、3年ぶりに前年を下回り、31.3%減と大幅減少
・新型コロナ感染拡大の影響が長引き、新型コロナに起因した関連倒産は11件(前年7件)、約6割(57.1%増)増。
・コロナ関連の資金繰り支援策に加え、介護報酬のプラス改定なども下支えし倒産は抑制
・業種別状況
1)大手事業者との競合で倒産が増勢をたどっていたデイサービス等「通所・短期入所介護事業」17件(前年比55.2%減)に半減
2)訪問介護事業47件(同16.0%減)に減少。ヘルパー不足や利用控えなどから他業態に比べて減少率が小。
(参考)
⇒ 介護事業の倒産 最多から一転、支援策や報酬改定の効果で3割減 【2021年 老人福祉・介護事業の倒産状況】 : 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)
2022年度の「老人福祉・介護」事業倒産概況
・倒産件数は、前年の反動もあり、介護保険制度が始まった2000年以降で最多の143件(前年比76.5%増)
・新型コロナ関連倒産が前年比5.7倍の63件と急増。コロナ関連支援縮小も背景に
・直接要因として、利用頻度の減少、在宅勤務の定着による需要減
・公定価格介護報酬性から、感染防止対策、光熱費・食材コスト等上昇分を介護サービス料金に転嫁できず経営悪化
・業種別状況
1)「通所・短期入所介護事業」(デイサービス等)69件(前年17件)と急増。
(内1グループの31件の連鎖倒産)、大手事業者との競合激化
2)「訪問介護」50件(同47件)と増加。感染リスク回避による利用控え、ヘルパー等人手不足深刻化
3)「有料老人ホーム」12件(同4件)。大型投資を回収できず資金繰りに行き詰まるケースも。
・倒産原因別状況
1)大手との競合や利用控えなどを要因とした販売不振(売上不振)の80件(前年比48.1%増、前年54件)
2)大型連鎖倒産発生で、他社倒産の余波38件(同1800.0%増、同2件)と急増
3)事業上の失敗など放漫経営が9件(前年同数)、
4)既往のシワ寄せが7件(前年比12.5%減、前年8件)、
5)設備投資過大が5件(同25.0%増、同4件)で続く。
・倒産形態別状況:再建の見通しが立たない消滅型を選択するケースが97.9%
・負債額別状況:1億円未満の小規模事業者が約8割
・従業員数別状況:10人未満が8割超
(参考)
⇒ コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 ~ : 東京商工リサーチ (tsr-net.co.jp)
統計を開始した2000年の「老人福祉・介護事業」倒産は、わずか3件。
その後、2008年に46件まで増えたが、中小企業金融円滑化法などの金融支援が効果をみせて減少に転じ、2011年は19件にとどまった。
しかし、新規参入が相次ぐなか、過小資本の企業ほど人手不足が深刻さを増す悪循環に陥り、倒産は右肩上がりで推移。2016年に100件台に乗せ、以降4年連続で100件台で高止まりしている。
東京商工リサーチに拠る介護事業業界展望とその考察
以上、2019年以降昨年度までの倒産動向を概況してみました。
次に、今回の同社レポートの中から、重点を抽出し、考えるところを簡単に述べたいと思います。
2024年介護報酬及び介護保険制度改正を控えて
本格的な高齢化社会が到来するが、小規模な介護事業者に明るさは見えない。
運営の効率化や介護職員の処遇改善など課題が山積し、状況を打開できない場合、介護事業者の倒産によって『介護難民』がさらに増える可能性も高まっている。
長引くコロナ禍で最も影響を受けたのが、殆どが小規模の通所介護事業、いわゆるデイサービス事業。
私は介護事業に、そのサービス作業に高い生産性を求めることそのものが、無理と考えている。
中でも、送迎つきのデイサービスは、その最たるものであり、コロナでの利用回避はもちろんだが、入れ替わり立ち替わり利用者とスタッフが出入りすることによる感染リスクの大きさ、感染防止対策の困難さは明らかであった。
もとより、こうした小規模事業は、公定価格を当てにした安定経営を想像・想定して参入した例が多く、経営管理の質、スタッフの質なども当初から高かった例は、恐らく少なかったであろう。
厳しい見方を繰り返してきているが、これは、参入者の責任というよりも、安易な参入を推し進めた政府・行政の責任と考えている。
ゆえに、特養等入所型施設を主とした介護事業サービス化を重点的に進めることで、生産性を高めること、スタッフの質と待遇を高めることに注力すべきであったと、以前から主張してきている。
社会保障審議会介護保険部会の当事者視点を欠く議論の継続
また、こういう記述もある。
2024年度の介護保険制度の改正に向け、2022年12月に開催された社会保障審議会介護保険部会では、介護人材の確保や生産性向上による制度の持続可能性の確保が求められた。
コロナ禍や物価高で経営が悪化している小規模事業者には、対策費用を負担する余裕はなく、公平性を担保しながら、コロナ禍でもサービスを継続する事業者への支援が必要だ。
商工リサーチ社がいうとおり、端から小規模事業者に審議会が求めることなど無理なこと。
しかし、一時的な対策費用を給付しても、やはり一時的なものであり、多少の延命が可能にとどまるだろう。
彼らが、制度の持続性を求めることと事業の持続性を求めることとは、一致していないことは自明である。
今後も介護報酬は大幅なプラス改定の可能性が低く、報酬単位の加算が取れない事業者の淘汰は避けられない。自動化や効率化によるコスト削減や人材獲得が優位な大手と、難しい小規模事業者の格差が拡大すると、2023年の介護事業者の倒産は増勢がさらに強まる可能性が高い。
同社のまとめは以上である。
まさにそのとおり。
こうした事態は、コロナ禍が根本的な原因ではなく、当初の介護保険制度、介護報酬制度の設計方法と内容にあったことを再確認すべきである。
従い、制度の持続性を主眼とした政府・行政、そして審議会の今後の提案は、利用者負担の一層の引き上げ、財政支出の抑制のための適用介護サービスの一層の削減の枠を出ないわけだ。
加えて、制度の持続性の一要素である、介護事業支援については、介護職への処遇引き上げのための直接支援ではなく、事業者への補助金支給と、やはり従来の方法・域を出ない可能性が高い。
グループホームなどの入所型介護サービスは生産性を問えない業態である。
地域型特養は、コロナ禍、感染拡大防止に腐心したここ数年だったが、なんとか事業を維持できているところが多いのではと思う。
大手の大型の、もしくはチェーン展開で規模を持っている介護事業者の優位性は今後一層強まる。
それが、スタッフの所得と労働環境の向上、介護サービスの質の向上を伴う面で望ましい。
しかし、訪問介護、デイサービス事業を営む小規模事業者の今後の望ましいあり方を、私は描けてはいない。
政府・行政、そして社会保障審議会介護保険部会などは、一体どのように考えているのだろうか。
頻度は少ないかとは思いますが、今後も、https://2050society.com で介護政策について多面的に取り上げていきます。
20年、30年後の社会を生きるすべての世代へ
この記事へのコメントはありません。