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異次元の少子化対策でも少子化は止められない3つの構造的要因(下)心理的・精神的構造要因:選択的非婚化社会化とひとりで生きるソロ社会化

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「異次元の少子化対策」と関連付けて、以下の記事を投稿した。
(上) 異次元の少子化対策でも少子化は止められない3つの構造的要因(上)人口構造要因:総務省2022年10月人口推計から(2023/4/13)
(中)異次元の少子化対策でも少子化は止められない3つの構造的要因(中)雇用・労働構造要因:経済的不安の根幹、非正規雇用者数・比率の増大(2023/4/23)

 この記事は、最初の記事中で、「今後も当分の間少子化抑止を拒むに違いない3つの構造的要因」として以下を挙げたことによる。

少子化対策効果を阻む3つの構造的要因(再々稿)

1.人口構造要因:結婚・出産行動を想定可能な女性人口の継続的な減少
2.雇用・労働構造要因:高い就労・所得不安に直結する経済的不安をもつ非正規雇用者構成比の高さと婚姻・出産回避行動
3.心理的・精神的構造要因:多様な生き方・働き方を選択可能とする価値観の拡大と容認する社会構造の進展

 今回は、最後の心理的・精神的構造要因>について考えてみたい。
 これまでの2回では、まず、結婚と子どもを生み育てる上での適齢年齢人口自体が、長期間継続する少子化により直接的に減少していること。
次に、それに加えて、結婚や子どもを生み育てる上での重要な要素である経済的な要素に不安を抱く非正規雇用者とその比率が増え、少子化に直接・間接に繋がっていることを想定した。

少子化対策効果を拒む<心理的・精神的構造要因>とは

 こうした社会的経済的構造要因に、多様な生き方・働き方を選択可能とする価値観の拡大と、それを容認する社会的文化的構造の広がりが重なってくるわけだ。

家族社会学者山田昌弘氏の論述でみる、少子化の心理的・精神的構造要因

 少子化の直接・間接的要因と考える非婚・未婚率の向上に関しては、家族社会学山田昌弘氏が、長きにわたって研究し、多くの書を生み出している。
私も、これまで複数のサイトでそれらを取り上げてきた。
その中に
少子化の主因、リスク回避と世間体意識変革は可能か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-3(2021/5/27)
がある。
これは、同氏の『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因』(2020/5/30刊・光文社新書)を参考にしたシリーズの一つ。


 同書の中で山田氏は、少子化に繋がる要因として、次の3項目を挙げている。
 1)将来の生活設計に関するリスク回避の意識
 2)日本人の強い「世間体」意識
 3)強い子育てプレッシャー

1)は経済的要因に属するものといえ、それが心理的・精神的構造に結びつくといえる。
2)3)は、まさに心理的・精神的要因に括ることができるかと思う。
しかし、この二つは、経済的不安と強く結びつくことを前提としているわけではない。
この内向き、ネガティブな思考も心理的・精神的構造要因とみなすことはでき、非婚・未婚、子どもを持つことを回避することに繋がることもありうるだろう。
しかし、推測の域を出ないが、子どもが生まれてから、子どもを持ってから感じる要素・要因の性質の方を強く感じる。

この記事の中で、私が述べている部分を、次に転載したい。

多様な生き方、結婚しない自由、おひとり様普通論等の非婚奨励・支援社会化の影響(再掲)

ここまで見てきて、気になっていることの一つに、未婚・非婚者が増える社会的状況・背景があります。
それは、結婚せずにひとりでいること、ひとりで生きることが、恥ずかしいことではない、自由な生き方、当然の生き方なんだという価値観が広がっている。
それが、未婚率の向上、少子化を結果的に後押ししていることになっている。
私は、こうした点も、次第に非婚・生涯未婚率上昇とそれから生じる少子化に間違いなく繋がっていると考えています。
その起点になっている書として、上野千鶴子氏による『おひとりさまの老後』(2007/7刊)があり、近年では、荒川和久氏の『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』(2017/1/27刊・PHP新書)、近著では、一層強力な支援となる同氏と中野信子氏共著の『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(2020/12/20刊・ディスカバー新書)などがあります。

ソロ社会化の認知と広がり

 上記の荒川和久氏の新刊に『「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(2023/4/5刊・小学館新書)があるが、共通点をもつ書と考えてよいかと。
「ソロ社会」「超ソロ社会」論の広がりとその認知。
マーケティングでも重要視されている要素が、まさに社会化しているわけだ。
なお、この新書は、5月の課題新書の1冊に予定している。

次に、同様の視点から感じていることをいくつか。

選択的非婚と非選択的非婚

 結婚という生き方を意志をもって選択しない「非婚」があり、結婚したいという結婚希望・願望を持ちながら、出会いがない、機会を逸した、仕事に追われたり、生活・暮らしに流されたまま・・・。
敢えてこれを自らの意志に反した「非選択的非婚」。
それが、社会に普通に認識され、認知され、逆にみれば、意識の枠外に自然に溶け込んでいる。
それはそれで、自由だ。
心理的・精神的構造の拡大を示す一面である。

LGBTQの社会化によるこどもを持たない生き方の増加

 同性婚という婚姻が合法化が進む社会。
しかし同性婚カップルが、養子縁組や体外受精などによりこどもを持つ例は、現状は極めて少ない。
これも少子化が進む、一つの要素・要因に加えられることになる。

8050問題を象徴とする就職氷河期世代と家族問題

 最近ではあまり耳にし、目にすることが少なくなった40・50・60歳代中高年世代が、70・80・90歳代高齢者と同居し、自身が無職や低所得で、親の年金収入で暮らしている事情を象徴的に捉え、表現した「8050問題」。
就職氷河期に嵌ってしまった世代が経験した無職・非正規雇用、就職難という社会状況の犠牲者がその当事者の一部とされている。
年齢・年代構成だけで見ると、私の近所にも、高齢の母と中年(にさしかかった)独身の息子(娘)との二人暮らし世帯が何世帯かみられる。
選択的非婚か非選択的非婚かは別として、こうなる生き方を選択している男女が多く存在し、今後も増え続けることが予想される。
独り身の親にとって、非婚の中年の息子・娘との同居生活が、むしろ安心感を抱かせる要因となり、子にとっても家事負担が少ない心理的・精神的にプラスの要素・要因になっているわけだ。
低い率に過ぎないとは思うが、少子化に結びつく構造的要因の例ではないかと感じている。

雇用の流動化、雇用形態・職業選択の自由、起業・独立の選択等働き方選択の多様化と少子化

 非正規雇用等による雇用と所得等経済的不安というマイナス要素に対して、自分を活かすための働き方の自由と選択、自由に生きるための働き方の自由度の獲得、雇用ではなく起業独立をめざした生き方・働き方の選択。
こうした自らの意志での選択は、非婚や晩婚、子どもを持つ年齢の高まりと子どもの数の抑制、すなわち少子化に、多少の影響を与えるのではと推測できる。

心理的・精神的構造要因を乗り越える少子化対策は可能か

 以上、いくつかこじつけ気味にではあるが、人それぞれがそれぞれの事情でもつ、心理的・精神的構造要因がもたらす少子化について、述べてきた。
この要因は、経済的不安と必ずしも一体化したものではない。
組み合わさっての場合もありうるが、心理的・精神的に抱く心情・心象やそれによる行動のあり方は、人それぞれである。
こうした事情をアンケートなどで調査するとしても、心理的・精神的要素に関することだけに、合理性や立証性には、絶対的なものを求め得ないと思う。
それゆえにまた、心理的・精神的側面に焦点を当てて、確実に少子化対策として有効な手立てを講じることは簡単ではない。
情緒的な取り組みの提案例もなくはないが、それが絶対的に有効であったというエビデンスは、得ようがないと思う。
(参考)
「幸せ」という情緒的要素を少子化対策の経済的手段とすることは可能か:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-2(2023/4/11)
山田昌弘氏提案の少子化対策とは?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-4(2021/5/28)

この要素・要因を抱く人々に、情緒的に訴えても、生き方は自由、だれにも生き方・働き方を強制する権利・権限はない、とされ、それをどうこうしようというものではないわけだ。
そして結婚するのもしないのも、子どもをもつのも持たないのも個人の自由、で、それ以上のやり取りには意味はない。

とすると、さまざまな事情にある人々の結婚とこどもを持つ持たないの生き方の選択において、もっとも手段としての共通性・有効性を持つのではと思われるが、子どもへの児童基礎年金、親もしくは親になる可能性や意志をもつ成人への生活基礎年金のベーシック・ペンションの支給、経済的要素である現金給付である。

それ以外のさまざまな育休支援制度や育休中の所得補償等は、それを必要とする状況にある成人、および将来子どもを持つことを想定する成人にとっての必要条件として整備・拡充すべき課題といえよう。
ここまでの議論・考察にくれば、当初私が提示した3つの構造的要因の枠組みを超えて、少子化対策を広範に議論・具体化できる状況に至っていると想定できるだろう。
しかし、それは、まず、3つの基本的な構造要因を認識し、経済的要因が最もベーシックな対策であることを共通認識とし、実行した上でのことと考える。

今回引用した先述記事のシリーズのラインアップは以下。

『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI>シリーズリスト

<第1回>:結婚・子育ての経済的側面タブー化が少子化対策失敗理由:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-1(2021/5/24)
<第2回>:夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
<第3回>:少子化の主因、リスク回避と世間体意識変革は可能か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-3(2021/5/27)
<第4回>:山田昌弘氏提案の少子化対策とは?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-4(2021/5/28)

この最終回第4回の記事で、山田氏の少子化要因論のまとめと対策論、それに対する私の批判・反論を示している。
ご関心をお持ちいただければ、全回確認頂ければと思います。


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