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『ヤングケアラー』新書で、その実態の理解と支援制度・システムの拡充へ

ヤングケアラーとは

 親・兄弟姉妹など家族等の介護・看護などのケアを日常行なっている18歳未満の児童や生徒を表現したもの。
 今年2021年4月公表の厚労省及び文科省調査によると、中学2年生の約17人に1人が「世話をしている家族がいる」と回答。
 うち、1日7時間以上ケアをする子どもは1割程度、対象は兄弟姉妹が約6割と最も多く、要介護や障害、精神疾患、依存症の親をケアをする子どもも大勢いる実態が明らかに。
 ケアのために「自分の時間がとれない」(20%)、「宿題や勉強の時間がとれない」(16%)と負担・影響が大きいことが浮き彫りになった。

「ヤングケアラー」を社会問題と認識し考察へ

 昨日2021/11/21に「親ガチャ」というコトバが広まっていることを知ったことから以下の記事を投稿。
親ガチャ、マルトリートメント、ヤングケアラー:子どもを主体とする支援センターの必要性(2021/11/21)

 その親ガチャの一つの現実例・現実問題を示す用語として、やはりこのところ社会問題として捉えられるようになっている「ヤングケアラー」がすぐに思い浮かび、そこに書き加えました。

 実は、その記事をアップする前に、日経の中で好きな読書コラム<今を読み解く>2021/11/13付で「介護に追われる子供たち」というテーマで、ノンフィクション作家久田恵氏が、ヤングケアラー問題を取り上げ、その実態を浮き彫りにする3冊を紹介してるのを見ました。

 ということで、 <書評・映画評に、ほほう、ひょうひょう>として、主に新刊新書を紹介するシリーズの第1回目として投稿した以下の記事
読み進まぬ『クソったれ資本主義が倒れたあとのもうひとつの世界』、購入候補リストにある『タリバン 復権の真実』 (2021/11/16)
に続いてのシリーズ第2回目としてそれらを紹介し、少し関連した事項をメモ書きしたいと思います。

書評・映画評に、ほほう、ひょうひょう-2

 母子家庭で同居する老親を20年に渡り介護してきた筆者。
 子供は幼少から介護家庭の困難さの一端を担ってきたので、ある意味当たり前、普通のこととして経験・体験してきたわけだが、ヤングケアラーという「この言葉に出会った時の衝撃はなかなかのもの」であり、「初めて実態が可視化され、見ようとしていなかったものを見ざるを得なくなってしまった思いだった」と述懐。
 そんな同氏推奨のヤングケアラー書3冊は以下のとおりです。

澁谷智子氏著『ヤングケアラー』(2018/5/18刊・中公新書)

 まずは、3年前2018年に発売された書『ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実』。
 その著者・澁谷智子は、世界に先駆けてこの問題に注目したイギリスに触発され、日本のヤングケアラーの存在を明らかにし、世論喚起に乗り出した方。
 一般社団法人「日本ケアラー連盟」(2011年設立)でもこの問題が、近年取り上げられるようになったことを付け加え、可視化された彼らの存在は、日本の家族の実態とその行方を象徴する事件だったとします。

 ヤングケアラー出現の背景にあるのは、戦後の核家族化、一人親家族の増加、女性の社会進出、少子化、経済格差拡大など。
 そうしたさまざまな要因により、脆弱化し続ける家族に介護問題が起これば、ひとたまりもない現状を描き、ケア体験や負担の重さから、子供が自分の将来のライフプランを描けず、同世代の子供たちから取り残されていく危険をもたらすと、警鐘を鳴らす書。
 必読に値すると思います。


進む、自治体によるケアラー支援条例制定

 当書発刊よりも遡って、2011年に設立されているのが 「日本ケアラー連盟」
 ここでのケアラーは、年齢・世代にかかわらずケアにたずさわる人々を総称するもので、ヤングケアラーに絞るものではありません。
 同組織のホームページでは、昨年2020年3月に、自治体による初めての「ケアラー支援条例」が埼玉県で制定され、今年2021年3月に北海道栗山町、6月に三重県名張市でも同様の条例が制定されたことが冒頭紹介されていました。
 これに続く自治体もあることも書き添え、その活動の啓蒙と支援を担っています。

埼玉県ケアラー支援条例>抜粋

 因みに、埼玉県のケアラー支援条例では、以下のように定義しています。

第1条(目的)
この条例は、ケアラーの支援に関し、基本理念を定め、県の責務並びに県民、事業者及び関係機関の役割を明らかにするとともに、ケアラーの支援に関する施策の基本となる事項を定めることにより、ケアラーの支援に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって全てのケアラーが健康で文化的な生活を営むことができる社会を実現することを目的とする。

第2条(定義)
この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 ケアラー 高齢、身体上又は精神上の障害又は疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供する者をいう。
二 ヤングケアラー ケアラーのうち、十八歳未満の者をいう。
三 関係機関 介護、障害者及び障害児の支援、医療、教育、児童の福祉等に関する業務を行い、その業務を通じて日常的にケアラーに関わる可能性がある機関をいう。
四 民間支援団体 ケアラーの支援を行うことを目的とする民間の団体をいう。

第3条(基本理念)
1 ケアラーの支援は、全てのケアラーが個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができるように行われなければならない。
2 ケアラーの支援は、県、県民、市町村、事業者、関係機関、民間支援団体等の多様な主体が相互に連携を図りながら、ケアラーが孤立することのないよう社会全体で支えるように行われなければならない。
3 ヤングケアラーの支援は、ヤングケアラーとしての時期が特に社会において自立的に生きる基礎を培い、人間として基本的な資質を養う重要な時期であることに鑑み、適切な教育の機会を確保し、かつ、心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られるように行われなければならない。


 通年としての<ケアラー>と<ヤングケアラー>との違い・線引きを理解するとともに、ヤングケアラーへの特別の配慮の必要性を述べている点に着目する必要があります。
 まさに、「特に社会において自立的に生きる基礎を培い、人間として基本的な資質を養う重要な時期」にあり、適切な教育の機会を確保し、心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られる」べき年齢・年代にある若者を守るための社会制度、社会システムを整備すべきなのです。

濱島淑恵氏著『子ども介護者』(2021/9/10刊・角川新書)

 もう1冊は、2ヶ月前に発売されたばかりのまさに新刊書『子ども介護者 ヤングケアラーの現実と社会の壁』

 日本のヤングケアラーが社会に認識され、支援に向けた動きがついにスタート台に立ったことが示された書と位置付けた、主に大人の介護家庭の生活破綻を対象とする研究者に拠る本書。
ケアする子供の背後に、ケアに苦しむ家族がいることを指摘していることにも着目するべきでしょう。

 本書は、入手したがまだ読み始めてもいない新書が2冊あるので、12月中旬の日曜日に、前述の『ヤングケアラー』と合わせてネット注文したいと思っています。

村上靖彦氏著『子どもたちがつくる町――大阪・西成の子育て支援』( 2021/4/27刊・世界思想社)


 残る1冊は、『子どもたちがつくる町―大阪・西成の子育て支援』
  一人のヤングケアラーとして育った女性が実際に取り組んだ支援に基づくレポートが衝撃的と評価している書です。
 しかし2,750円という安くはない書であり、買い求めるとしても、中古書が出回るかなり先になるかと思います。
 ここでは、久田氏の以下のコメントを紹介させて頂きます。

全く家族として機能していない家族の中で、自分の状況を自覚できていない子供たち、いわば自覚なきヤングケアラーが見捨てられている実態を描いている。
(略)
格差社会の中で子供の貧困化が言われて久しいが、こういった貧困問題の視点なしにヤングケアラーの真の実態は見えてこない。
貧困化対策として、早急に家庭内介護者にも介護保険から介護費が支給されるべきであり、若者が働きながら学び、何度でも社会にチャレンジができる、そんな多様で温かい自己実現の道がいくつも用意されるべきだろう。
家族ケアの負担が子供たちの将来を閉ざすような社会を根本的に変革できなければ、この国には未来がないと言わざるを得ない。

ヤングケアラーが通う小中学校、高校等教育機関の努力義務としての役割

 ところで、冒頭に紹介した当サイト記事において、子どもが通う学校でのスクール・ソーシャルワーカーの配置と子どもを主体とする総合的な相談支援センターの自治体への設置・運営を提案しました。
 こうした対策・政策に関しては、先日した「埼玉県ケアラー支援条例」の<第8条>に「 ヤングケアラーと関わる教育に関する業務を行う関係機関の役割」という以下の条文が設定されています。

第8条(ヤングケアラーと関わる教育に関する業務を行う関係機関の役割)
1 ヤングケアラーと関わる教育に関する業務を行う関係機関は、その業務を通じて日常的にヤングケアラーに関わる可能性がある立場にあることを認識し、関わりのある者がヤングケアラーであると認められるときは、ヤングケアラーの意向を尊重しつつ、ヤングケアラーの教育の機会の確保の状況、健康状態、その置かれている生活環境等を確認し、支援の必要性の把握に努めるものとする。
2 ヤングケアラーと関わる教育に関する業務を行う関係機関は、支援を必要とするヤングケアラーからの教育及び福祉に関する相談に応じるとともに、ヤングケアラーに対し、適切な支援機関への案内又は取次ぎその他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

 
 いじめに関する法令・条例もそうなのですが、この類の初期の法律の多くは、「行うよう努めるものとする」という、いわゆる努力義務に留まります。
 言うならば、学校・教員が積極的にそうした可能性の有無について児童等から聞き出す機会・場を持つことまで要求していないのです。
 これ以外の条文においても、ほとんど具体的な項目は盛り込まず、「必要な施策を講ずるものとする」「 努めるものとする」 で終わらせるのです。
 本来、この類の条例を制定する段階で、「適切な支援機関」が何か、どこにあるのか、「必要な支援」とはどういうものがあるのか、意味するのか迄、極力具体的に表現し、伝えるべきなのです。

「やっている感」だけの政府・地方自治行政の社会問題対策姿勢は許されない

 
 政権内閣ではありませんが、日本の行政は、こうした「やっている感」を示すことには長けているのですが、住民一人ひとりをしっかり見すえての対策・政策、規程を示すまでには至らないことが多いのです。
 ましてヤングケアラーの場合は、まだ自立していない、本来保護されるべき立場の子ども・若者です。
 一層、神経を使い、十分な配慮が必要なのです。
 見える形、分かる形での社会問題改善・解決アプローチを切に望むものです。


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