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柴田悠氏著『子育て支援が日本を救う』『子育て支援と経済成長』:勝手に新書-8

book, diary, random note, onologue

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少しずつ、よくなる社会に・・・

少子化対策は、https://2050society.com でこれまで重点課題として何度も論じてきています。
また、日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金を提案する http://basicpension.jp においては、少子化対策そのものをベーシック・ペンション導入目的の一つとして論じてきてもいます。

その脈絡の中で、https://2050society.com の方でいずれその内容に基づき取り上げる予定で、当サイトの<勝手に新書シリーズ>で前回、
山口慎太郎氏著『子育て支援の経済学』:勝手に新書-7(2022/3/25)
を投稿しました。

実は、その投稿の中でも触れましたが、山口氏のその新刊書『子育て支援の経済学』(2021/1/20刊・日本評論社)よりも5年近く以前に、同じジャンルの書、柴田悠氏による『子育て支援が日本を救う(政策効果の統計分析)』(2016/6/25刊・勁草書房)が出版されています。
その柴田氏の書も昨年入手し、一通り走り読みしていたのですが、どうも統計的に論じた書に違和感を感じ、サイトで取り上げないままにしていました。

しかし、山口氏の書を取り上げて、柴田氏の書は取り上げないというものまずいと考え、今回紹介することにしたわけです。
そこで、同書を再確認するなかで、翌2017年に同書の分かりやすい解説版といえる『子育て支援と経済成長』(2017/2/28刊・朝日新書)という新書が出されていることを知り、急ぎ(中古書)を発注。
入手してすぐに読み終えました。
先行書ではなく、この新書で充分と評価できるまとめ解説書でした。
後日、その内容を参考に、柴田氏による子育て支援及び少子化対策提案を先行してhttps://2050society.com で取り上げ、その後、山口氏に同エビデンス書とそれに先行して発刊された、『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(2019/7/30刊・光文社新書)も用いて、同課題での考察をと考えています。

以下に、柴田氏の2著書それぞれの構成を抽出しました。

子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析』構成

はじめに
第1章 本書の問いと答え ー 子育て支援が日本を救う

 1.労働生産性を高め財政を健全化させる政策
 2.自殺を減らす政策
 3.子どもの貧困を減らす政策
 4.財源確保の方法
 5.日本の「現役世代向け社会保障」が乏しい背景
 6.「選択」は「歴史」をのりこえる
第2章 使用データと分析方法

 1.使用データの概要
 2.分析方法 ー経済成長の研究から学ぶ
 3.経済成長とは何か
 4.経済成長率の先行研究
 5.説明変数と被説明変数
 6.最小二乗法推定(OJS推定)
 7.パネルデータ分析でのOLS推定 ー動学的推定と一階層差推定
 8.「逆の因果」の除去 ー操作変数推定
 9.すべてを兼ね備えた一階層差GMM推定
10.一階層差GMM推定の手続き
11.実際上の留意点
12.使用データについての留意点
第3章 財政を健全化させる要因 ー労働生産性の向上
 1.背景 ー財政難という問題
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第4章 労働生産性を高める政策 ー女性就労支援・保育サービス・労働時間短縮・起業支援など

 1.背景 ー「労働生産性の向上」は財政健全化をもたらす
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第5章 女性の労働参加を促す政策 ー保育サービス・産休育休・公教育

 1.背景 ー「女性の労働参加」は「社会の労働生産性」を高める
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第6章 出生率を高める政策 ー保育サービス

 1.背景 ー「出生率の向上」は財政健全化をもたらす
 2.先行研究で残された課題
 3.仮説
 4.データと方法
 5.結果
 6.結論
第7章 自殺を減らす政策 ー職業訓練・結婚支援・女性就労支援・雇用奨励

 1.背景 ー自殺率という問題
 2.先行研究で残された課題
 3.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 6.結論
第8章 子どもの貧困を減らす政策 ー児童手当・保育サービス・ワークシェアリング

 1.背景 ー子どもの貧困という問題
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第9章 政策効果の予測値

 1.予測値の計算方法
 2.OECD平均まで拡充する場合の予算規模と波及効果
 3.待機児童解消に必要な予算規模
 4.その場合の波及効果
 5.他の目標のための予算規模
 6.結論 ー現実的な目標設定と予算規模
第10章 財源はどうするのか ー税制のベストミックス

 1.行政コストの削減には限界がある
 2.財政方式をどうするか
 3.個人所得税・社会保険料の累進化
 4.年金課税の累進化
 5.被扶養配偶者優遇制度の限定
 6.消費税の増税
 7.資産税の累進化
 8.相続税の拡大
 9.相続税拡大だけならベルギーの1.2倍
10.小規模ミックス財源
11.最小限の改革 ー潜在的待機児童80万人の解消
第11章 結論 ー子育て支援が日本を救う

 1.右派「保守」と左派「リベラル」の合意点
 2.残された課題
あとがき

子育て支援と経済成長』構成

はじめに
第1章 財政難からどう抜け出すか

 ・お金がないのが大問題
 ・日本政府の懐事情
 ・社会保障支出に食いつぶされる超高齢社会・日本
 ・訪れなかった第3次ベビーブーム
 ・先進諸国の経験から学べ ー統計分析という手法
 ・財政余裕に影響する三つの要素
第2章 働きたい女性が働けば国は豊かになる

 ・財政余裕は改善できる
 ・女性の心に響く商品を生み出すには
 ・正社員女性比率と利益率
 ・ラガルド発言の根拠
 ・「財源なし」でできる一手
 ・そもそも昔の女性は働きに出ていた
 ・女性の職場進出を後押しする
 ・「3年間抱っこし放題」は効果なし?
 ・育休より効果的な保育サービス
 ・保育の拡充が財政余裕を増やす?
 ・限られた予算を活かす政策を
第3章 「子どもの貧困」「自殺」に歯止めをかける

 ・高齢者より高い子どもの貧困率
 ・子どもの貧困がもたらす問題
 ・子どもの貧困を減らす政策
 ・ワークシェアリングより保育サービス
 ・家計に負担のかかる無認可保育園
 ・3歳以上は夕方まで保育無料のフランス
 ・児童手当も大事
 ・日本の自殺率を下げる
 ・自殺予防に効果的な政策
 ・離婚による孤独と自殺
 ・「一家の大黒柱」からの解放
 ・子育て支援が日本を救う
 ・それぞれが「幸せ」を感じられる社会
第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本

 ・子育て支援額は先進国平均の「半分」
 ・「経済成長を促す政府支出もある」
 ・障害者福祉サービスと「応益負担」
 ・「適応」って本当にいいことなの?
 ・適応概念の歴史
 ・社会保障の問題を数字で示したら
 ・高福祉国家・北欧とルター派の関係
 ・宗教改革が高福祉国家を生んだ
 ・17世紀に導入された救貧税
 ・カルヴァン派がつくった低福祉国家・アメリカ
 ・投資によって偶然儲かったら
 ・キリスト教の歴史と社会保障
 ・トッドの家族システム論
 ・日本はなぜ低福祉になったのか
 ・江戸時代からの新しい救貧文化
 ・バブル崩壊後の企業福祉
第5章 子育て支援の政策効果

 ・結局、待機児童はどれくらいいるのか
 ・子どもを持ったお母さんは一生パート?
 ・保育士が集まらない
 ・待機児童問題解消にはいくら必要か
 ・公立の認可保育所は縮小傾向
 ・子育て支援でどのくらい経済成長するのか
 ・待機児童解消による政策効果
 ・長時間労働が引き起こす「保育の質」の低下
 ・フランス革命と出生率
 ・保育ママ以外の要因は?
 ・フランスから学べること
 ・保育所で解決したスウェーデン
 ・「マツコ案」で保育・教育の無償化を試算してみた
第6章 財源をどうするか

 ・財源のミックス案
 ・財源案の合意形成に向けて
おわりに ー分断を超えて

 ・古市さん、駒崎さんとの出会い
 ・相手と共通の「暗黙の前提」からスタート
 ・子どもたちのための協力

2書の違いは、前者が統計データに基づく論述を基本方針としていること。
後者は、その統計的な要素を簡略化し、前著の主張・提案を分かりやすく要約している点にあります。

そして、後者の新書においてのみ示されている<第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本>が、社会学者である柴田氏独自の興味深い内容となっているのが特徴でもあります。

一方、この類の書にしては珍しく、子育て支援政策を推し進めるために不可欠な財政・財源問題について、かなり具体的に、突っ込んだ提案をしていることが、共通の特徴です。

それはそれで、大変評価できる、評価すべきことではあると思います。
が、統計分析結果そのものの妥当性・適切さに関しては、個々の統計手法の有効性・裏付けを信頼できるものとしても、複合的で多様な要素の組合せ、反映度・その内容などを考えると、果たして絶対的なものと言えるかどうか。
大きな、そして難解な疑問が残ります。

そして何より、2書が発行されて数年後に発生した、新型コロナパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻等の想定外のグローバル社会・地政学的情勢の変化がもたらす社会経済及び生活・労働諸条件の変化があります。
そこでの「子育て」や「出産」「結婚」問題への意識とその支援政策への影響が、この2書で示した統計分析と果たして整合性を保ちうるかどうか。
まあ、こうした視点を前提とすると、2書で企図したオーソドックスな論述から、本質的な要素を排除してしまうので、後日行う考察においては、十分配慮して取り組みたいと思います。
なお、先述した、新書の<第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本>における論述も取り上げたいと考えています。

                       少しずつ、よくなる社会に・・・

<勝手に新書>とは

 昔、アパレル・チェーンストア企業に勤務し人事・能力開発担当だった頃、市販のアパレル通信教育プログラムと自分で作成開発した自企業社員向け教育プログラムを一体化して活用。
 そのための添付作成した副教材のコラムに<勝手に新書>と題して、自己啓発用に1冊ずつ新書を紹介しました。
 そのタイトルに少し手を加えて、40数年ぶりに復活させて、これからネットで注文したての新書を中心に当サイトにメモ書きしていくシリーズです。
 新書でない場合もあるのでその場合は選書。
 いずれにしても新刊書中心なので、新鮮書、というわけです。
 と初めは「しん・せん書」と言っていましたが、意味不明気味なので、単純に「新書」と一本化しました。
 今回はその第8回です。


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