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濱口桂一郎氏著『ジョブ型雇用社会とは何か』:勝手に新書-4

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『ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機』濱口桂一郎氏著

 いつも利用しているネットショップで、長く欠品だった 濱口桂一郎著 『ジョブ型雇用社会とは何か ー正社員体制の矛盾と転機』(2021/9/17刊・岩波新書)。
 ようやく、年が明けて1月2日に発注し、5日に手元に。
 昨日9日から読み始めました。
 同書はベストセラー書となっており、12月半ばには4版を重ねています。

 以前、ある書評・新著紹介コラムに
「職務内容を明確にした「ジョブ型雇用」を導入する企業が増えている。一種の流行語のようにもなっているが、間違って理解されているケースが多いと著者は指摘する。日本的なメンバーシップ型との対比で、採用や賃金、労使関係などの違いを歴史を踏まえて丁寧に説いていく。「同一労働同一賃金」や高齢者雇用などの労働政策の矛盾点も鋭く突いており、労働市場の課題を幅広く知ることができる。」
としてあった書。

 私のほぼ25年間の経営コンサルタント業務においても軸となっていた人事制度と人材育成制度領域と関係しているテーマの書であり、著者濱口氏の他著も過去数冊入手して読んでおり、関心をもっていました。

 その読み始めたばかりの序章の冒頭で、<氾濫するおかしなジョブ型論>として、濱口氏命名の、このジョブ型・メンバーシップ型雇用を紹介し取り上げた日経紙を、痛烈に批判し、皮肉っています。
 要は、よく理解せずに、誤った内容で関連記事をものにしていることに対してです。

 そしてなんと今日の日経朝刊1面トップ記事が、「日立、全社員ジョブ型に」というタイトル。
⇒ 日立、全社員ジョブ型に 社外にも必要スキル公表 高度人材、内外から募る

 その内容を濱口氏はどう評価しているか。
 少しは正しく理解できているとみるか、あいも変わらずいい加減に、知ったかぶりしての内容とみるか。


 
 ところで私はこの日経記事をどう読んだか?
 まあ、実際にどんな雇用形態にどのような人事制度・賃金制度・能力開発システム、そして福利厚生制度や各種社会保険・労働保険制度がセットになっているのか。
 そうした総合的な制度体系が示されてこそ、ジョブ型やメンバーシップ型の内容と是非を議論・評価すべきというのが私の基本スタンスです。
 その観点からも、ジョブ型・メンバーシップ型雇用とその基盤での人事システム、業務システムに関しては、いくつかの疑問・質問があります。
 これまでの濱口氏の著書において、それらについて明確な回答に当たるものに出会っていません。
 果たして、本書を読み進めるなかで、理解・納得できる内容を見出すことができるか。
 そもそものジョブ型・メンバーシップ型をめぐる議論・考察を含め、いずれ、https://2050society.com の中でテーマとする機会を、本書読了後にと考えています。

『ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機』 構成

序章 間違いだらけのジョブ型論
1.氾濫するおかしなジョブ型論
2.ジョブ型の毀誉褒貶
3.メンバーシップ型の矛盾

第1章 ジョブ型とメンバーシップ型の基礎の基礎
1.ジョブ型契約とメンバーシップ型契約
2.入口と出口とその間
3.賃金制度と「能力」
4.対照的な労使関係
5.非正規労働者と中小企業労働者
6.法律と判例の複雑な関係

第2章 入口と出口
一 入口

1.採用の自由と採用差別禁止
2.試用期間の意味
3.学歴詐称の意味
4.入口の年齢差別禁止法
5.周縁地帯の中途採用
二 入口以前の世界
1.教育と職業の密接な無関係
2.日本型雇用の収縮に取り残される教育
3.アカデミズムの幻想と職業訓練の世界
4.学び直しというけれど
5.学習のフォーマルとインフォーマル
三 定年と高齢者雇用の矛盾
1.定年退職は引退に非ず
2.根っこにある中高年問題
3.矛盾に矛盾を重ねる高齢者雇用対策
四 解雇をめぐる誤解
1.ジョブ型社会で最も正当な整理解雇
2.誤解だらけの「能力」不足解雇
3.現実社会の解雇の姿
4.移る権利・移らない権利

第3章 賃金 ーヒトの値段、ジョブの値段
一 生活給を「能力」で説明した年功賃金の矛盾

1.職務評価による固定価格がジョブ型賃金
2.生活給から「能力」主義への曲がりくねった道
3.下がらない「能力」の矛盾とご都合主義の成果主義
二 日本版同一賃金同一労働という虚構
1.非正規労働者の均等・均衡処遇政策
2.同一賃金同一労働という看板を掲げた政策過程の裏側
三 家族手当と児童手当の間
1.家族手当の展開
2.児童手当の曲がりくねった細道
3.矛盾に満ちた家族手当

第4章 労働時間 ー残業代と心身の健康のはざま
一 残業代とエグゼンプションの迷宮

1.労働時間とは残業代と見つけたり
2.適用除外制度をめぐるねじれた経緯
3.月給制と時間制の一体化
4.管理職は職種か処遇か
二 本当のワーク・ライフ・バランス
1.夫と妻のワークライフ分業
2.迷走するワーク・ライフ・バランス
3.転勤という踏み絵
三 過労死防止のパラドックス
1.残業規制の源流は過労死裁判
2.健康とプライバシーのはざま
四 メンタルヘルスの迷宮
1.メンタルヘルスのパターナリズムとプライバシー
2.メンバーシップ型はパワハラの培養土

第5章 メンバーシップの周縁地帯
一 女性活躍というけれど

1.女子は若いのに限る ー 花嫁候補のOLモデル
2.ジョブの平等、コースの平等
3.ジョブなき社会の女性活躍
二 障害者という別枠
1.メンバーシップ型になじまない障害者雇用
2.発達障害と躁鬱気質のパラドックス
三 ローエンド外国人 ー サイドドアからフロントドアへ
1.サイドドア型外国人労働者導入政策
2.サイドドアからフロントドアへ
四 ハイエンド外国人の虚実
1.ジョブ型「技人国」在留資格とメンバーシップ型正社員の矛盾
2.専門職はどこまで高度か

第6章 社員組合のパラドックス
一 企業別組合 ー労働組合だけど従業員代表
1.ジョブ型社会の労働組合と従業員代表
2.事業一家の覇者交替
3.戦後日本社会の設計図
4.労働争議の蔓延と絶滅
二 従業員代表制は転機になるか?
1.企業別組合から排除された人々
2.1949年改正の隠れた意図
3. 企業別組合と従業員代表制の複雑な関係

 上記の構成(目次)を見る限りでは、社会保険や労働保険に関する記述はありません。
 また、最後は「社員組合のパラドックス」というテーマで本書の締めくくっており、ジョブ型雇用の在り方の総括としてのものとしてはあまり期待できないのではと想像してしまいます。

 ジョブ型・メンバーシップ型雇用を考えるとき、それは、経営サイドからは働かせ方、働いてもらう形について、働く側からは、生き方の中での働き方、働かされ方という視点があります。
 ここで具体的な議論・考察にはいるべきではありませんが、そもそも「ジョブ型」の基本は、独立自営業としての働き方、収入の獲得方法にあるとも言えます。
 メンバー(シップ)ではないことの原点がそこにあります。
 そうした視点をも持ちながら、本書の内容を紹介・検討・考察して論じる機会を、いずれ https://2050society.com で、2050年の望ましい日本社会の創造のフィールドにおける、個人個人の望ましい自由な生き方・働き方が可能な社会の実現をテーマとして設定できればと考えています。

 なお、そもそものジョブ型・メンバーシップ型雇用を提示した書が、12年前に執筆発刊した『新しい労働社会 -雇用システムの再構築へ』(2009/7/22・岩波新書)とのこと。
 昨日その中古書を発注しており、今週末までには入手できそうです。
 今週中に本書を読み終えた直後に、同書も斜め読みして、誤解・無理解を生じさせた濱口氏の元々の提案・主張も併せて確認したいと思っています。

<勝手に新書>とは

 昔、アパレル・チェーンストア企業に勤務し人事・能力開発担当だった頃、市販のアパレル通信教育プログラムと自分で作成開発した自企業社員向け教育プログラムを一体化して活用。
 そのための添付作成した副教材のコラムに<勝手に新書>と題して、自己啓発用に1冊ずつ新書を紹介しました。

 そのタイトルに少し手を加えて、40数年ぶりに復活させて、これからネットで注文したての新書を中心に当サイトにメモ書きしていくシリーズです。
 新書でない場合もあるのでその場合は選書。
 どちらも新刊書中心なので、新鮮書、というわけです。

 と初めは「しん・せん書」と言っていましたが、意味不明気味なので、単純に「新書」と一本化しました。
 今回はその第4回、4冊目です。

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